耳鼻咽喉器科というカテゴリーに属する疾患で、鍼灸治療を希望される方は意外に多いものです。また、その治験例は大変多く、様々な方の福音となっています。その中でも、めまい、耳鳴り、難聴などの耳に関する疾患が特に多いと思われます。また、この十数年特に多くの人を悩ませているアレルギー性鼻炎(花粉症を含む)で治療を受けられる方も増えてきました。
注・症例に関しては、こういう疾患に鍼灸治療は時としてこのように有効である、ということを示すために記載しており、同様の疾患でもその効果を保証するものではありません。また、当院が他の鍼灸院に比して、特別優れていることを示しているものでもなく、多院でも、同様の治療効果は期待できます。様々な疾患をきちんと治療しようとすれば、定期的な治療を受ける必要があります。時間的経済的にあまり負担にならず、気軽に通える範囲で良い鍼灸院を見つけてください。
<<耳に関する疾患>>
1・めまい(眩暈)
めまいといってもそれは一つの症状を指し示すに過ぎず、その背景となる疾患には様々なものが考えられる。さらに、患者さんが訴える「めまい」という言葉の示す多様性には注意が必要である。
(1)眩暈を起こす疾患
めまいを起こす疾患として、もっとも有名なものは、なんといってもメニエル症候群(病)である。(これが「症候群」なのか「病」なのか、という論議はで割愛するが、ここでは、めまい、耳鳴り、難聴の同時多発的複合的疾患と定義する。ここで、同時多発的と言ったのは、難聴と耳鳴りが先行し眩暈が続発するレルモワイエ症候群と区別するためである。)また、突発性難聴の一部や良性発作性眩暈(けんうん)といったものが、我々の日常で接することが多いめまいである。また、原因不明の(病名をつけられない)ものもしばしば遭遇する。
(2)「めまい」という言葉について
医学的に眩暈(めまい)とは、「自分が静止している時に、静止しているはずの周囲のものが動いている感覚」を指し、状態によって回転性、動揺性、浮動性のものがある。これは、主に耳に関する上記の様々な疾患が原因となっていることが多いようである。 また、「目眩」と書いても「めまい」と読むように、こちらは「目が眩む(くらむ)」、つまり、目の前が急に暗くなることも「めまい」と形容される。正しくは眼前暗黒発作といわれ、貧血や内分泌異常、椎骨脳底動脈循環不全などでみられる。また、起立性低血圧などでも起こりうる。さらに病気でなくとも、飲酒や排尿でも誘発され意識混濁を伴う場合がある。
(3)めまいの症例
メニエルに関しては、症例も多く存在し、はり治療の例もたくさんあるので、ここでは、ややレアなケースとして、良性発作性眩暈の症例を含めて書いてみることにしよう。ただ、この疾患の多くは、非常に効果が上がりやすいのであるが、まれに効果が現れなかった場合もある。その症例も、ここで正直に報告し、今後の検討材料としたい。
症例1・良性発作性頭位変換性眩暈(64才・女性)
下から上へ、左から右へ頭を動かす度に、極度の回転性の眩暈を生じる。起床時もベッドから起きるときに起こる。朝、恐ろしくて起きられないことが多い。初診前月、ルーチンな血液検査は、総コレステロール値がやや高い以外は、全て正常。
2回治療し、第3診で、眩暈が完全に消失したとの事。この3回目の治療で、いったん終了。その約3週間後に再発し、治療再開。またも2回の治療で消失するも、念のために、4回の治療を行う。その後、4ヶ月経過した現在、通院中のご家族より、再発無しの報告を頂いている。
症例2・メニエル症候群(29才・女性・ニュージーランド)
西洋の方々の中には、鍼灸の適用範囲を正しく理解されている方が少なくなく、彼らの訴えは、日本人よりも多岐にわたっている。この方は、日本滞在中にめまいで西洋医学的治療を受けられ、服薬したものの薬の効果が無く、早々に見切りをつけ鍼灸治療の受療となった。
初診一ヶ月前から、起床時のめまいがひどく、病院でメニエルと診断。ビタミンD、睡眠薬等を処方される。5日間服用するも効果無く、また半年前から子宮内膜症の治療で、ピルを服用すると、症状が顕著に増悪。
第4診で、3回目の治療の後は、めまいが起こらなかった、との事。ヨーロッパ旅行を控えているので、全身調整もかねて、計6回の治療を行う。2週間のヨーロッパ旅行を終えて帰国。旅行中もめまいは全く起こらなかったと、喜びの報告をしてくださった。
症例3・めまいの無効例
今まで多くのめまいの治療を行ってきたが、記憶の範囲で、全く効果がなかった例が1例ある。本当に残念なことであった。その後、それと同じようなタイプのやはりめまいを訴える女性が来院されたが、全く別の治療方針をとり、治療3回で効果を感じ始めて頂いている。
2・耳鳴り・難聴
めまいが平衡覚に関する症状であるのに対し、耳鳴りと難聴は共に音覚に関する症状であるので、同時に論ずることにする。これら音覚に関する疾患は、伝音性と感音性に分けられる。前者では、耳小骨の離断や固着、鼓膜の欠損、また真珠腫性などの中耳炎などがあげられる。後者では、メニエル症候群、突発性難聴、ヘッドホン難聴、ウイルス性・細菌性難聴、老人性難聴、第8神経に由来するものなどがあげられる。
ここでは、耳小骨離断、突発性難聴、原因不明の難聴の三つについて、症例をあげ、その効果を実証したいと思う。
ところで、脳神経十二対のうち、その神経自体を目標にするなら、聴神経は治療が困難な疾患である。にもかかわらず、鍼灸が往々にして効果をあげられることは非常に興味深いのだが、ではいかなる作用機序が働いているのか、それは臨床ばかりやっていると、全く不明なことが多い。西洋医学を理論医学とするなら、鍼灸は経験医学であるので、まず結果が最優先される。良い結果を伴い集大成された経穴を我々は利用しているに過ぎないのだから、理論は「後付け」とも言える。しかし、原因不明とか薬剤の効果が芳しくない疾患において、結果最優先の鍼灸治療が重宝がられるのは当然と言えるだろう。
話を戻して、耳鳴りと難聴について考えてみよう。
1・耳小骨離断(亜脱臼)
耳小骨はヒトの骨の中ではもっとも小さく、数ミリ程度のツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の3つからなる増幅器である。音のもととなる空気の振動はまず外耳で増幅され、鼓膜に伝えられる。その鼓膜の内側でその振動をさらに増幅させるのが、これら3つの耳小骨である。この時点で空気の振動は千倍にも増幅されると言われている。これらを通して次に蝸牛に伝わるのだが、この3つの骨が関節を形成しており、その関節がはずれたり離れていたりすると、当然のことながら振動はそこで遮断されてしまいそれより先には伝達されなくなる。耳を傾けると「こつこつ」とか「ころころ」などという音がするのと同時に聴力が低下しているのに気付く。但し、耳あかが溜まっている場合も音がしたりするので、注意が必要。
症例・Sさん(七十代、女性)
定期的に、体調管理で来院されていて、ある日、治療に来られる数時間前より、左耳で「コロコロ」という音が鳴り始めた。耳を一定の方向に傾けると必ず、音が鳴る。発症数時間という状態で、耳の治療を行う。その後3回の治療と耳鼻科受診1回で、音が止む。再発無し。その後も鍼で健康管理されていて、とてもお元気。
2・突発性難聴
突発(性)難聴は、「とつなん」という呼び名が存在するほど、ポピュラーな疾患であるにもかかわらず、予後は明るいばかりとは言えない。名前が示すとおり、突然、短時間で高度の難聴を引き起こし、多くは頑固な耳鳴りを残す。ステロイド剤等が使われることが多い。が、西洋医学的には一定期間の治療で、ある程度の回復で治療終了となってしまう患者さんが多いような気がする。しかしながらそこで完治しているわけでなく、難聴と耳鳴りを残す場合が多い。そうした後に鍼灸治療を始められることが多いようだ。
この疾患の治療は、治療開始時期が特に重要な意味を持つ。早ければ早いほど良い。西洋医学的には発症から2週間以内の治療開始が大切と言われている。鍼灸治療についても同じで早ければ早いほど良い。原因不明の難聴と耳鳴りで、発症後1年以上の経過をたどり、西洋医学的に経過観察のみで悪化の一途をたどっておられた方が回復基調にのったりすることもあったが、早期治療が基本原則であることに異論を差し挟む余地はないだろう。
症例・Mさん(五十代、男性)
発症後、某大学病院の耳鼻科で2週間のステロイド治療で一定程度の回復をみて終了。しかし、耳鳴りと難聴が残り、某鍼灸院を受診。その鍼灸院で5回治療するも、あまり効果なく、当院を受診。治療数回で効果を実感するに至り、毎月の定期検診で、毎回聴力の改善が示されている。「この改善が続く限り治療を続けます」とのことで、通院中。最終的な結果もここで報告したい。また耳鳴りも徐々に減少し、休日などの心身共に安らげる日は、耳鳴りをあまり感じなくなった。
この方は、突発難聴の治療が時間との戦いであることをよくご存じなのであるが、通院中に、当院の治療を急に中止され、他の鍼灸院を受診された。友人の紹介で「すぐに直してあげる」と言われたとかで。が、「行ってみたらさっぱりだった」と照れながら再度予約を取られて、現在も加療中である。
電話で相談すると「治りますよ」と簡単に言われる場合があると、しばしば耳にするが、どんなに名医であろうと、診察もせずに「治る」と断言することは不可能なはず。他のページでも触れているのでくどいようだが、こういう応対には注意が必要。
3・原因不明の耳鳴りと難聴
こと耳の疾患に関しては原因不明なものが多いようだ。器官自体が微細な構造であり、その訴えが非常に感覚的であるので、致し方ないのかも知れない。そんな、原因不明の耳鳴り・難聴の治療例を紹介する。
症例・Nさん(二十代、男性)
来院約1年前より、高音性の難聴と耳鳴りが出現。約半年間大病院の耳鼻科に通院し服薬を続けるも好転の兆し無く、耳鳴り、聴力低下が徐々に悪化。耳鳴りの頻度は1日おきとなり、翌日も続くことがある。原因不明。
最後の望みを託して鍼灸治療を希望。初診から一貫して週に1回以上のペースで治療を続ける。治療開始後2ヶ月で、耳鳴りが小さくなっているとの事。治療開始後月に4〜5回の治療ペースを守られ、年に4回の定期検診では、毎回聴力の改善が続いている。ご本人は「このままでは聾唖になるのでは」と絶望的であったが、今はもう耳鳴りも気にならなくなったり、データの改善が続いているので、「もうその心配はない」と、とても喜ばれている。更なる改善のために、初診から1年2ヶ月を経て、現在も通院中。
<<鼻に関する疾患>>
現在加筆中。 |